遠い、永遠に掴むことの出来ない、遠い青



True blue



 ソニックが、呟いた。

「黒って、羨ましいな」



 よく晴れた日だった。
綺麗なグラデーションを作って広がっていた青空は、海のように、深く、何処までもその存在を称えていた。
柔らかく浮かんだ白い雲は、清澄な空を魅せる化粧のようだ。
誰でも夢を馳せるであろうこの青い空の下で、それのような青い色をしたハリネズミが、ふとそんなことを呟いたのだった。
 僕は首を傾げざるを得なかった。
僕は聞いた。「何故?」、この黒を羨ましいがるのかと。

 冬を過ぎ、春に差し掛かった太陽は、本領を発揮したがるように、急にその存在を半分の地球に押し付けていた。
皆はやっと暖かくなったなと、四季の流れにはにかんでいるが、
僕は、春が音速で通り過ぎ、あっという間に夏が来たような暑さに襲われて、四季の流れに顔をしかめていた。
僕が暑がりなわけではない。
僕のこの「黒」い体が、熱を吸収してくれるのだ。
春でもこんなにジリジリと焼き付く暑さなのに、夏という季節は、正に僕にとっては灼熱地獄同然だ。
 何が言いたいかと言えば、僕は彼の言葉が不思議で仕方ない、ということだ。
この「黒」の体であるが故に、苦労も絶えない僕から見れば、他が想像するより遥かに、彼の言葉は僕に大きな疑問を与えていた。

 彼は、彼と同じ青を見つめたまま、んー、と唸ってから呟いた。

「だって、黒は色んな色を吸収してるんだろ?」


 僕は首を傾げる他仕方がなかった。やはり意味が分からない。
奴はいつも突拍子もないことを言う時があるが、今日はまた格別だ。
ため息だけ反応として渡すと、「こんな話を聞いたんだ」、彼は勝手に話し始めた。
それは、僕に理解を促しているようであった。


「葉っぱは、赤と紫に近い青の光を吸収して、光合成をするって。逆に言えば、それ以外の色は大して要らないんだってさ。
 光は、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫、7色に分かれてるんだが、葉っぱは赤と青しか使わないから、緑とか黄とかは必要ない。
 んで、要らない光の色は葉っぱに吸収されずに外に出される、反射されるんだ。
 反射されたその色の光はオレ達の目に入って、そしてオレ達はその物体の色を認識する。
 だから、葉っぱは緑色に見える、つまりは、だから、葉っぱは緑色なんだってさ」

 長々とした説明を聞き終えた僕は、少々の感嘆を込めた相槌を打った。
僕は、正直その事を知らなかったから、それが正か誤かは判断を下せないが、ほんの少し彼への感心を覚えた。
失礼な話だが、普段の彼からは、物知りな印象は全く受けない。

 だが、僕は『少し』しかそう思わなかった。
先ほどの彼の言葉は、いまいち要点を得ていない。
 「それで」、語尾を上げて彼に問うてやった。
彼の本心が少しも理解出来なかったからということもあるが、何か言わないとあちらも何も言わないだろう雰囲気が、あの彼にあったからだ。

 ・・・「いや、」ソニックは曖昧な溜め息を吐いて、

「それから、それは全てのモノに当てはまるんじゃないかな、って思ったんだ」
「ああ、それで」
「・・・それで

 それじゃあ、


 オレは、一生、あの空の色になれないんだな、って、思って」



 そんなことを、話した。


 青やかに染まる天の海原に、藹然と雲が流れる。
ひゅうと吹いた風に煽られ散った草の欠片が、その明澄な青を引き魅せた。
 それが流れる先を、ソニックは見つめていた。
ふわりとトゲが揺れた。
その哀艶なる情景を、僕は見ていた。

 なあ、シャドウ。そうソニックは口を開いた。

「オレは音速で走れる足を持ってる。大抵の事ならコイツがあれば何でも出来た
 ――― 別に過信してるわけでも、天狗になってるわけでもないけど――― 、オレは風にだってなれた。
 なのに、シャドウ、何でオレは、こんなに近い空になれないんだろう。
 オレは空と同じ青色をしているのに、何での空の青を持つ事が出来ないんだろう」


 僕には分からなかった。何故そんなことを言うのか、彼は。
多分、彼にも分からないのだろう。
彼もふと頭に過ぎっただけ、その葉の話を聞いて、ふと思っただけなのだ。
だから、彼もそんな彼自身に困惑して、あるはずの答えを見つけられずにいるのだ。
そしてそれ故に、彼は自分と同じ筈の青を、どこか、請うように、縋るように見つめているのだろう。
僕は思った。

 全て推測だ。確たる証拠など何処にもない。
ただ、僕はその哀婉なる風景を見て、そう思ったのだ。



「ソニック」

 僕は、彼を呼んだ。
青の光を反射して青々と僕の視界に映る彼が、僕の方を見た。
悲哀とも言えぬ、無表情とも言えぬ黄緑色が、僕の赤を見つめた。

 彼は、音速の足を持っている。何処にでも行けるし、何でも手に入るかもしれない。
彼とほぼ等しいスピードを持っている僕は、その能力の可能性もそれが持つ確固たる保障もよく知っている。
だから、彼の言っている事も、理解は出来た。

 けれど、彼は少し勘違いをしている。彼は早合点するがあまり、多少の誤解を持ってしまっているのだ。
 確かに、音速の足があるとて、空は掴めない。どんなに走っても、あの青に追いつくことなど出来るわけがない。
必死に足掻いても、きっとそれはそこにあるだけだ。
 そう、空の青を手に入れようとすること、それ自体に誤りがあるのだ。
空は世界に等しく、そこに存在している。故、僕らには、最初から、それは等しく与えられているのだ。
僕らは、そこに等しく、生物として存在しているのだから。

 しかし、多分、彼はそんなことは当の昔に知っているだろう。
彼の勘違いはそこにはない。彼は、その事が分からずに混乱しているのではなく、
むしろ、分かっているからこそ、混乱しているのだ。

 空は等しくそこに存在し、そしてその存在は等しく僕らに与えられている。
だから、一度は夢を馳せたこの空の青を、青の自分は持っていたと思っていた確信たる自分だけの普遍的な考えが、彼にはあった。
しかし、覆されたのだ。
一つの世界の普遍的な現象によって、一つの己の普遍的思想が、一気に崩れ去ったのだった。
それは、ずっと昔から空と共にいた彼にとっては大きな衝撃だっただろう。

 等しく与えられているのにも関わらず、何故この体は青を反射してしまうのか。
心はあの青を必要としているのに、何故この体は青を拒絶してしまうのか。
彼は、その事に対する答えが得られずに、立ち尽くしているのだ。


 僕は知っている。彼が求めている答えを。
 そう、彼の勘違いと答えは、もっと違う所にあった。




「何故、君がそんなことを言うのか、僕には分からない」

 僕はそう話を開き始めた。

「空は僕らに等しく与えられている。それを掴む為に走り続ける必要などないだろう」
「そんなこと知ってる」 ソニックが返事を投げ付けた。
「そんなことは知っている」 僕は平生と反復した。「ならば、君は何故物欲しそうにあれを見上げる」
「・・・青が、」
「君はそこで間違えている」

 僕は曖昧に漏れた彼の声を一刀両断した。

「・・・どういう意味だ?」

 ソニックは深刻そうに僕の目を見つめた。悄然とした網膜の向こうに炎を燃やした目であった。
僕はそのままの瞳で返してやった。

「君と空は、同じ青だ。これ以上に君に答えを与えるものはない」

 そう言うと、彼は眉に影を作って、疑問と怪訝を顔に含ませた。
無理もない。彼から見れば、僕は理解に苦しむ発言をしている。
いつもと立場が逆なことに気が付いて、僕は可笑しな違和感を感じた。
 だが、本当にこれ以上に彼へ答えを授けるものはないのだ。
僕はもう少し、先ほどの言葉の具体を晴らしてやった。

「君は、青を手にしようとするその時点かそれ以前で、見落としをしている。
 自分が青なのは、青を拒絶しているからだと、君は言った。だから、決して空にはなり得ないと、君は言った。
 けれど、その空は青色をしている。
 これがどういう事か、君なら分かるだろう」


 え?、ソニックが呟いた。


 そう。それこそが答えだ。


 物体は、己に必要がないから、その色を拒絶する。
その色が反射されることによって、僕らはそれを「その色の物体」だと認識する。
ソニックの場合、その色が「青」であった。

 体は、己に必要ないから青色を反射する。
体は、ずっと空と同じだった青色を拒絶する。
だから、本当は体に青が宿っていなかった自分は、あの空になり得ないと、彼は言った。

 その空は、どうだ。
 その空は、青だ。
 ソニックと同じ、青だ。
 ソニックと同じ、必要がないから僕らの方へ反射している、青だ。

 そう、それこそが答えだ。




「君は、空そのものだ」




 僕らに等しく、暖かさと、優しく、時には励ましの瞳で見守ってくれる。
そして、僕らに夢を馳せる時を与えてくれる。
 青を反射して、僕らに青を与える君は、青を反射して、僕らに安らぎの時間を与えてくれる、空と一緒だ。
空と同じだ。
 ――― そして、空そのものだ。

 これ以外の答えは無いと、僕は思う。



 ただ、雲だけが流れていた。
広々と、向こう側へ白を引き連れて歩み行くそれは、大空を翔ぶ鳥の群れのようであった。
 僕がふとその様子を見ていると、ソニックはつられるように、半身ほど振り返らせてあの空を見上げた。
太陽に照らされて、蒼く、青く広がるそれは、ずっと僕らを見ていた。

 風が頬を撫でると、ふと彼のトゲがほんの少し上下に揺れた。
すると、彼が振り直って、僕を見た。
 朝日を受けて、優しく微笑んで今日を告げる、空のようであった。


「Thank you、シャドウ」




 不意に、びゅう、強く風が吹いた。
暖かく柔らかな、春一の風であった。



















  あああとがががggg


 えー・・・。と。wwwww
 またなよっちぃソニックかよ!とか言われそうですね分かってます。だってなよなよソニック大好きなんだもん!(爆)
私が書くともれなくキャラがなよっちくなります。もはや仕様だと思ってます←

 えーと!
生物の時間でですね、植物は赤と青を吸収して〜(ry)緑色なんだよ、と教わってですね、
それじゃあソニックは・・・?と考えて考えて(=妄想して妄想して)、本編に至りました(色々抜かしている気がするwww)
今回は、特に隠し要素(?)はありません。自分の言いたい事は全部本編で述べられたかなーと思います。
いやっはー、もう、楽しすぎるよソニックいじり!wwww
もうソニックがソニックじゃない?知るか!(殴)

 うむ、しかし今回はうだうだ長く書いたにしては短いな・・・。もっと長くしたかったんだけど。
ぐだぐだうだうだ長く書くのもすごく楽しいです。だが語録が少ないので色々と残念だ!orz
そして内容すごく分かりづらいですね。すみません。^p^
精進します。今度はソニックがなよなよにならないように頑張ります。wwww

 題名が「Ture blue」になってますが、ソニックのアルバムから取った訳ではありません(笑)
もっと他のにしたかったんですが、いまいち思いつかなかった・・・
なんか公式の物と名前が一緒だと恥ずかしいですよね・・・www

苦情?だが断る!←←←


掲載日:10 07 04 Sun.
By 聖夜 ライト

本当は、これ、春に書いたものでした・・・。
だから所々季節外れな文があります。気にしないでね!(笑)




Back inserted by FC2 system