空が、遠く見えた



そばにあるもの



 俺は、今日も昨日と同じ様な生活をしていた。
祭壇の階段に腰をかけ、流れる雲を見つめ、風を感じる。
後ろには、緑色の光を放つ 巨大な宝石、マスターエメラルドがあった。

 俺は、マスターエメラルドの守護者、ナックルズ・ザ・エキドゥナだ。

 今日もまた マスターエメラルドの守護を続ける。
誰に何を言われたわけでもなく、何があるというわけでもなく、俺はただ この宝石の守護を続けていた。

 俺は、それが俺の使命だと感じていたからだ。

 雲が、黙々と俺の頭上を通り過ぎていく。
この星は今日も規則正しく回転しているんだろうなと ぼーっとしながら思っていた、その時だった。

「お〜い、ナッコウズ〜!」
「ナックルズ〜!」

 遠くから、声が聞こえる。 まさか幻聴ではないだろう。
懐かしく、聞きなれた声に 俺は立ち上がった。

 ずっと向こうに、二つの影が見える。
その影は こっち、祭壇のほうへ向かっていた。
いや、正しくは祭壇ではなく 俺に向かって、だろうが。

「よ〜ぅナッコウズ! 久しぶりだな!」
「元気にしてた〜?」

 10秒も経たずに俺の近くまで駆けつけた声の主は、手を上げて挨拶をした。
ソニックと、テイルスだ。

「お前らか・・・何か用か?」

 俺が二人の元気のよさに少し呆れていると、世界の太陽とでもいえる奴が、

「何だよナッコウズ、冷たい言い方だな〜」

いつもの調子で返してきた。
 全く、こいつらは 元気なのは相変わらず変わらない。
元気すぎるのもどうかと思うぜ、と俺は心の中でこっそり呟く。

「用は別にないけど、遊びに来たんだよ!
 平和すぎるマスターエメラルドの守護にため息をついてるところかな、って思って」

 テイルスはそう言うと、微笑んで見せた。
余計なお世話だ。

「こんなにいい天気なのに、今日もマスターエメラルドの守護なんてやってたのか?」

 ソニックは俺の背後に回ると、マスターエメラルドに手を置いて 俺に尋ねた。

「・・・『なんて』、とは何だよ」

 俺は少し口を尖らせて、機嫌を損ねた。
確かに、今日はおてんとさまも機嫌がいいようで天気はいいし、気温も暖かい通り越して暑いぐらいだ。
 でも、だから何だ?
この宝石の守護者である俺には関係もない話だ。

「ナックルズは仕事熱心だね」

 苦笑しながら、テイルスは俺の顔を覗き込んだ。

「・・・・これは、俺の使命だから」

 俺はふぃ、と 横を向き、空を見つめた。
遠くにある森と共に見える空は綺麗で、とても遠かった。

 俺は風景を見つめるうちにぼーっとしていたようで、沈黙が続いてるのも気付かなかった。
ソニックとテイルスはその間、どうしていたのだろう。
 俺が我に返ったのは、ソニックの視線に気付いてからだ。

「? 何だ、ソニック?」

 俺は ずっと俺に視線を浴びせていたソニックの方を向き、首をかしげた。
ソニックは何か考えているような、真剣な顔をしていた。
俺の声は聞こえていたようだったが、どうやら無視されたようだ。

「ナッコウズ」
「ん?」

 ようやく声を発したソニックに、俺は短く言葉を返す。
ソニックはさっきまでの真剣な表情を放り投げたように、ぱっ と明るい笑顔を見せた。

「息抜きも必要だぜ?」
「は?」

 ソニックの発言に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
何を突然。

「テイルス、留守の間 マスターエメラルドの守護を頼む。 少しだけだしさ」
「うん、ボクはOKだよ」
「はっ!? 何言ってんだよお前ら!?」

 二人の会話に、俺は割って入るように声を出した。
だが、そいつらは そんな俺の言葉も軽くスルーだ。

 ソニックは俺の腕を力強く掴むと、ニヤリと笑って見せた。

「さ、行くぜ ナッコウズ!」
「どこにっ!? つか待て、俺にはマスターエメラルドの守護という大事な役割が・・・!」
「いーのいーの! 今は忘れて、ちょっと息抜きしてこようぜ」

 ビュウン!!

 「行くぜ」の合図もなしだ。
ソニックは俺の腕を掴んだまま走り出した。

「ちょ、待てソニックーーーっ!!!」

 俺の言葉もお構いなし、ソニックはそのままエンジェルアイランドを抜けてしまった。

 助けを求めてもきっとテイルスはソニックに加担していただろうな・・・。
その時、見送るように手を振っていたテイルスの顔は 笑顔だった。





「おい、おいソニック!!!」

 俺はただソニックに引っ張られるがまま 走っていた。
コイツのスピードに合わせるだけで精一杯で、ブレーキを掛けることが出来ない。
ソニックはどんな表情をしているのだろう、引っ張られ 後ろをついていかなければならない俺には表情は窺えなかった。

「ソニック、聞いてんのか!? 止まれ!!」

 俺は必死に静止を求める。 一体、コイツは何を企んでやがるんだ・・・
かなりの距離を走ってきたらしく、エンジェルアイランドはもはや見えなくなってるし、
加え ここがどこなのかもわからなくなっていた。

 さっき静止を求めてから数十秒、ソニックは徐々にスピードを緩め、そしてやっと止まった。

「・・・ソニ――――
「ナッコウズ」

 俺の呼びかけは ソニックの呼びかけに遮られた。 同時に互いの名前を呼んだ、というわけだ。
そのソニックの声は、どことなく真剣だった。
聞き慣れないヤツの真剣な声に、俺は少しひるんだが 続きの言葉は飲み込まなかった。

「・・・ソニック、一体どういうつもりだ」

 ソニックは 俺に背を向けたままだった。

「ここまで強引に引っ張ってきやがって・・・お前が無理矢理にでもさせたかったことは何だ」
「辛そうだったから」

 背を向けたまま、ソニックは呟くように答えた。

「誰が」
「オマエが」

 彼の言葉に、心臓が跳ね上がった感覚を覚えた。
辛い・・・・俺が?

「オマエ、無理してるだろ。 ・・・マスターエメラルドの守護」
「バッ・・・! 無理してるわけないだろ! あの宝石を守護すると決めたのは俺が決めたことだ!」
「だったら、寂しそうな顔で空を見上げる?」

 ソニックは 言葉を発すると同時に振り返った。
ヤツの言葉に思わず声を荒げてしまった俺は、振り返ったソニックの表情に驚いてしまった。

 ヤツは 普段の振る舞いでは想像できない、真剣な表情だった。

「なぜ 物欲しそうな顔で、空を見上げる?」
「・・・!」

 ソニックには気付かれていた。
俺自身でも気付かなかったことに。 いや、気付きたくなかったことに。

「決心したことをするのは、オマエの自由だ。
 だけど、それを無理しながらするのは、本当の自由じゃない」

 目をそらしたくなるほどの真剣な眼差しで、ソニックは俺の目を見ていた。
俺の心を読み取るように。

「うんざりしてたんじゃないのか? 何もない、毎日の生活に。
 オマエはマスターエメラルドを優先しちまって、そのことにも気付かなくなってる。
 あの宝石を護るのもオマエの自由。
 ・・・でも、今 オマエが求めてる自由とは違うんだろ?」

 コイツ、バッチリ当てちまった。
その通り。 全くその通りだった。
毎日の生活にうんざりしているのも、違う自由を求めているのも。

「・・・俺は」

 言葉が続かない。
守護者としての心と、一人の「俺」としての心が 俺の口を閉ざしてしまった。


――――― 行こうぜ」

 ずっと掴みっぱなしだった俺の腕を、ソニックは ぐいと引っ張った。

「オマエを自由にしてやるから」

 そういうとソニックは、ニヤリと笑い いつもの表情を見せた。





 俺はソニックに連れられて 山を登っていた。
「すぐ着くって!」とソニックは言っていたが・・・それはお前だけだぞ。
崖登りは得意だが、山登りはなぁ・・・

 心の中で愚痴をこぼしていた俺に、ソニックは明るい声をかけた。

「着いたぜ、ナッコウズ!!」

 ぐいぐいとソニックは俺の腕を引っ張り、急かす。
いつの間にか、俺たちは山の頂上に着いたようだ。
ソニックのスピードに息切れを覚えながら、俺は下を向いていた顔を上へ上げた。

―――――― ・・・!!」


 俺は思わず呆気にとられてしまった。

 山の頂上は、たんぽぽの綿毛で埋め尽くされていた。 ・・・まるで白い絨毯だ。
風が吹くと、そよそよと波を起こし 種が空へと舞い飛んだ。

「綺麗だろ?」 ソニックは振り返ると、やっと俺の腕を放した。「毎年楽しみにしているのさ。
 種になる前の一面のたんぽぽも、すごく綺麗だったんだぜ」

 ソニックは腰に手を当てて、ふわふわと流れていく種を見送っていた。
種はまた、旅立つように空へと舞い上がっていく。

―――――― あ・・・」

 俺は思わず声を出していた。




 空が、俺の近くにあった。




 エンジェルアイランドでは遠く見えた空も、こんなにも身近に見える。

「どうだ、ナッコウズ?」
「・・・・綺麗だ」

 俺は呆然とそこにある風景を見る。



  俺は、自分を縛り付けていた。
 『俺がやらなきゃいけない』と、使命感を感じると共に 俺は自由を縛り付けていた。


  ―――― 自らの手で、自由を縛り付けていた。



「マスターエメラルドを護るのは別にいいさ。
 でも、無理だけは絶対にダメだぜ?」

 ソニックも目の前に広がる風景を見ながら、そう口を開いた。

「辛くなったら、オレ達を呼んでくれればいい。
 いつだってオレ達は近くにいる。 ・・・・違うか?」

 言葉の最後と同時に、ソニックは俺のほうを向いた。
俺はゆっくりと首を横に振る。




 近くにある。 仲間も、・・・遠くに見えた空も。




「・・・ソニック」
「ん?」

 俺の呼びかけに、ソニックは短く返した。
ソニックは微笑んで、頭の後ろで手を組む。

 俺らしくもないし、気恥ずかしいし、言わないでおこうかとも思った。
 だけど、たったの五文字だ。



――――― ありがとう」


 俺は、感謝の言葉を口にしていた。
結構、すんなりと言えた。

「・・・You are welcome!」

 ソニックは輝く太陽のように満面の笑みを浮かべた。





 俺は、これからも マスターエメラルドの守護を続けるだろう。
 ずっと、きっと、いつまでも。



 この空とともに。



















  えへっ☆(あとがき、の意)


 なんかもー・・・いやぁ、あはははは〜・・・(何)
ナッコは好きです(だから何だよ)

 ナッコって、ずっとマスエメ(略すな)の守護してて暇じゃないのかなーなんて。
冒険の真っ最中は何だかんだ言って生き生きしてたし。
仕事熱心なのはとてもいいことなんだけどねー ナコって頑張り屋さんすぎな感じが・・・(ぇ
熱心すぎて「遊びたい!」「走りたい!」「冒険したい!」という気持ちを抑えちゃってるんじゃないかとも(ぇぇぇ
 んで、このネタを。

 でもって、本作を通して
「オマエは自由なんだから、何をするのも何を決めるのも自由なんだぜ?」
ってことを伝えたかったのですよよよ
ただそれだけの思いつきで キーボードぱちぱち打ちましたw

 なんか今回語ること少ないです(爆)
質問、意見、感想、苦情はWEB拍手よりどうぞ。 泣いて喜びます(ぉ


掲載日:07 5 6 Sun.
By 聖夜 ライト

ナッコ、キミはいじりやすいんだ(殴)




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