意味がなければ それは味のないものと化す・・・・・・・・

 守るべきもの 〜SAVING SOMETHING〜



数日前から、何気ないソニックの一言が気になっていた。
『なぁ、ナッコーズ』
『何だ?』
『お前、ずーっとこんなとこにいてヒマじゃねーのかぁ?』
一週間ほど前、ソニックがここを訪ねてきた時のことだ。
俺とソニックは(珍しく、静かに)階段に座って話をしていたのだが、
いきなりこんなことを言われて、少しむっときた俺は思わず言い返そうとした。
『よけいなお世話だっ!俺には・・・・』
『マスターエメラルドの守護っていう役目があるんだ、だろ?』
が、ソニックに先手を取られてしまった。
俺は同じ事を言おうと思って開いた口を、ゆっくり閉ざした。。
『・・・そうだよ。何が悪い?』
そのまま、ぼそっと返す。
『悪いなんて言ってないさ。でも、ちょっとくらいは息抜きをしてみたらどーなんだ?』
ソニックはそう言うと、ぴょんと立って、空を見上げた。

『この間、カオスエメラルドを巡ったゴタゴタがあったよな』
ソニックが言っているのは、この時よりほんの半月前。
話を回想している今から数えたって、まだ一ヶ月経っていないだろう。
『そん時に分かったさ。お前がずっとずっとマスターエメラルドを守っている理由。
 あのカオスの悲劇を繰り返さないために、お前はこうしていたんだろ?』
そう、その通りだ。俺はソニックに黙って頷いた。
かつてこの話は一度も聞かされていなかったが、おそらく体に流れる血が、俺をそうさせていたのだろう。
頭ではその使命を認識していなかったとしても。
『でもさ、時には休むことだって必要だぜ?』
『なっ!?だから俺にはその使命があるから・・・!!』
『いいや、』
ソニックは俺の言葉を遮って、続けた。
『お前は生まれてから今まで、十分すぎるくらいに頑張った。そして、カオスも昔のような、穏やかな心を取り戻した。
 だったら、今くらいは一息入れたっていいんじゃないのか?』
ずっと空を見ていたソニックが、ふいにこちらを向いた。
『・・・・っ、・・・・・・・・・・・』
その奴に、俺は言い返せなかった。







それからだ。俺がこう、物思いにふけるようになったのは。
一体どうしてなんだろう?前はこんなことなんてなかったのに。
でも、しかし。
どうしてだろう、その日から俺は、これまで抱いたことのない感情を持て余していた。

   束縛感。

奴からすれば、きっと俺は、奴が最も忌むであろう『束縛』に冒されているように、
つまり、使命に縛られたガーディアンであるように見えるのだろう。
そしてこれまで俺は、その中で生きることに疑いなんて持たなかった。
だのに、言われてみて、俺は自分が外から見てどうなのかに気づいた。

――――― いや、気づいてしまった。

それと同時に頭をもたげたのは、ここは窮屈だと泣き叫ぶ、精神の断片。
大部分の精神が否定する中で、それはしぶとく生き残っていた。
そしてそれは日々拡大し、今にも俺の定めを邪魔しようとしている。

「ちっ・・・・」
分かっている・・・・・このままじゃダメだ。
きっと、このままじゃ俺は・・・・・・・・・・・・・。



「しゃーねえ、少しだけ気晴らしにでも行ってくるか」
自分の心に折れるなんて情けないが、しかしそうしなければ、守るという意志が続きそうになかったのだから仕方ない。
て、仕方ない・・・・のか?
まぁ、いいか。
とにかく、この気持ちが収まるまで、少しばかり散歩でもしてこよう。
「とはいえ、何もしておかないのはやばいよな・・・・おい、『ロック』!!」
俺は唐突に思い立ち、祭壇の方へと呼びかけた。
しばらくの静粛ののち、階段を駆け下りて何かがこちらに向かってきた。
桃色のたくましげなチャオ、"ロック"。
『1人じゃ寂しいでしょ』ってテイルスが連れてきた、俺が育てているチャオのうちの1匹だ。
俺は『元居たところに返してこい!!』と突っ返そうとしたが、テイルスがそれを聞かずに
行ってしまったため、仕方なくここに置いている。
いや、別に、鬱陶しいという訳ではないのだが。
「ロック。俺はこれからちっとばかし出かけてくる。何かあったら、すぐに俺に知らせてくれ」
俺はそう言づてを残した。
ロックもそれを受け取って、「チャオ!」と元気に返事を返した。
「よーし、いい子だ。じゃ、行ってくるぜ」
俺は軽くロックの頭をなでた。そしてすぐにそこを離れ、ゆっくりと、島に茂る森へと分け入っていった。






























やっぱり、外は気持ちがいい。
久しぶりに歩いた森は、みずみずしく生い茂って、生命の息吹というものを強く感じられる。
普段なら夏の強い日差しが注ぎ込み、ついばててしまう時間帯なのだが、
ここは日差しがちょうどよく遮られているのも、気持ちよさの原因の1つだろうか。
ソニックは、こうした気持ちいい場所を沢山知っているのだろうな。
あいつは旅ガラスだから。

、か。
ふと、その言葉が頭をかすめた。
元々はそんな気なんてなかったが、今だけは、少しだけ興味が沸いた。


アイツはいつもどんなことをしているのだろう。
どんなものを見ているのだろう。
誰に強要されるわけでもなく、ありのままに見る景色は、奴の目にどう映るのだろう?


俺もかつてはマスターエメラルドを捜す旅や、エッグマンをぶっ倒す旅に出たことがあったが、
それは必要に迫られてのことだ。
必要性にかられず、自分の意志で出たものは、未だかつてない。




  ・・・・一瞬だけだが、不覚にも、旅に憧れてしまった。
  定めから解放されたいと思ってしまった。





と、その時だった。



 ヒュルル・・・・ヒョォォ・・・・・




一瞬だが、かすかに自然のものではない音が聞こえた。
音色、とでも言うべき種類のものだろうか。
「なっ・・・・侵入者か!?」
俺は焦った。
よりにもよって、俺がマスターエメラルドの場所を離れた時にっ、ちくしょう!!
と思ったが、次の瞬間、思い直した。

   ちょっと待て、これはまさか。

あり得ないと思いながら、しかし否定は出来ない。
俺は無意識のうちに、あるものを取り出していた。
"太古のメロディ"
古代の想いを今に伝える、小さな笛。確かめるように、それを吹いた。

 ピュルー・・・・・ピュルルー・・・・・・。

すると、呼応するかのように、はっきりと音色が返ってきた。
俺のそれと、同じ音色が。

 ピュー・・・・ピュロロー・・・・・・・・。

―――――― 左か!!」
考える前に、体が動いていた。俺は草木をかき分け、道なき道を進み始めた。
その終着点で見た者は、俺が予想していた、しかし一方では否定していた人物であった。
そして、それはソニックやテイルス達ではなかった。






 「て・・・っ、ティカル・・・・・!?




見間違えようもない。
木漏れ日に揺れる、俺とよく似たオレンジの髪。
神秘的な服装に、優しげなその表情は、紛れもなく彼女のものだ。

「きゃっ!?」
俺の声に驚いたのか、ティカルもこちらを向いて、ばっと身を引いた。
が、瞬間の間があって、すぐに彼女は警戒を解く。
「あ・・・・ごめんなさい、びっくりしてつい・・・・・」
「いや、いい。こっちこそ驚かせて悪かったな」
決まり悪そうなティカルに返し、俺は彼女の居る水場へと近づいた。
「それより、お前、どうしてこんなところにいるんだ。
 お前の心は、マスターエメラルドに封じられていたんじゃないのか?」
そして、俺は彼女の横、小さな池を見やった。
「それにカオスまで・・・・こんなとこで何をしてたんだ?」
そこには、かつてよりだいぶ小さくなったものの・・・・青き水の神が立っていた。
かつてのギラギラしたそれと違い、今はとてもおだやかな目をしていた。
一ヶ月前にこの目で見た、ティカルの記憶の中の彼のように。

「ごめんなさい・・・・今まで黙ってて。
 実は私、ここを昔のようなところに戻せないかって思って、ずっとここに通ってたの」
そう言って、ティカルは池に近づいた。
「ねえ、この人にも見せてあげて。ここに生まれた、新しい命を」
ティカルの呼びかけに応じて、カオスが水を震わせる。
と、近くの木の下から、なにか小さなものが1つはい出した。
「!!?」
それは・・・・チャオだった。
ティカルが祭壇の上で面倒を見ていた、脆くて柔らかい生命。
それが今、この島に戻ってきているというのか。
そう考えている間にも、チャオ達は木の下から次々とはい出して、いつの間にかその数は10を越えていた。
「あの時の侵攻で全て殺されたと思ったんだけど、ついこの間、ほんの2匹だけ生き残っていたのを見つけたの。
 数千年もの間、細々と、だけど確実に命を継いでいたようなのよ」
言いながら、ティカルはそのうちの1匹を抱いた。
か細い腕の中に、無邪気な笑顔が咲く。
「だから、私とこのひとで相談して、決めたの。
 この子達が今度こそ幸せになれるように守っていこうって。そして私達で、新しい平和を作っていこうって」
きゃはは、と笑い声が聞こえた。見れば、数匹のチャオがカオスに群がり、じゃれている。
どこから見ても、平和そのものだった。

途端、その景色が、遠い昔のエンジェルアイランドへとシンクロする。



   ああ、なるほど。俺はそう思った。
   ティカルがその身を賭してまで守りたかったもの。それはここにあった。
   どんなに小さくても、ここにあるのは紛れもなく、『平和』。
   何よりも平和を愛する彼女だからこそ、誰よりも守りたかったのだろう。
   たとえ、それが自らを捨てる行為だとしても。


そして、それをようやく見つけることが出来たと同時に、感じていた束縛感は消えていた。

「・・・・あなたは、自分を曲げてまで守らなくてもいいのよ」
突然ティカルはそう切り出した。俺は黙って、ティカルの言葉を聞いていた。
「かつてあの人が、蒼い風・ソニックが言っていたでしょう。あなたはもう、十分すぎるくらい頑張った、って。
 だから、もう定めに縛られることはないわ。自由になっていいのよ」
ティカルはどうやら、あの日の会話を聞いていたらしいな。
「私は、あなたが無理をしてしまうのが一番イヤなの。だから・・・・・」
ティカルは小さく顔を伏せた。
そんな彼女の顔を見てなのか、腕の中にいたチャオも、きょとんとして、彼女を見上げた。


   やっぱり、お前は優しい奴なんだな、ティカル。俺のことを心配してくれて。
   だが、ここに来て決めたんだ。気が変わったんだ。
   思えば、俺はこれを捜すためにここに来たのかもしれない。
   そして気づくことが、ようやく出来た。
   俺が本当に守りたかったのは『定め』じゃない。この小さな幸せだった、と。

   だから俺は迷わない・・・・俺はもう・・・・・・・・・・


「ありがとう、ティカル」
不思議なくらい、すんなりと言葉が出た。対してティカルは、驚いたのか不思議な目でこちらを見ている。
「だが、俺はどこにも行ったりしないぜ。今も、これからもな。
 ―――――― 思い出したんだ、俺が本当に護りたいものを」


   俺は歴史に、いや何にも縛られてなんかいなかった。
   俺を縛っていたのは、使命感という自分の勝手な思いこみだった。
   だからこそ、解放されたいとも感じてしまったし、投げたくもなった。
   だが、今、俺は変わった。本当に護りたいものが生まれた。

   意味のない限り、それは味気なく感じるけど。
   1つでも意味を見いだせば、やり遂げられる気がしてくる。

   だから、誓おう。
   定めに惑わされずに、今度は自分の意志で。


「カオスの怒りを二度と引き起こさないために。この小さな平和を守っていくために。
 俺はこれからも、マスターエメラルドを守って生きていくさ」



その時、そうだったのか俺には確信は持てなかったのだが――――
カオスの目が、優しい光を帯びたように感じた。






キャロルさんが、自分が描いた「こちら」の絵をもとになんと小説を書いて下さりました!
なんかアレですよね〜、読んだあとの達成感と言うか、心が暖まると言うか。
すごい感情がはっきりと伝わってきて、心がほんわりするんですよ! こういう小説書きたいw
あんな絵からこんな素敵小説を書いて下さって本当にありがとうございました(´∀`*人)

サイト掲載用にほんのちょっと変えた部分がありますが、支障があればご連絡下さいませ。




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